2026年10月13日
この連載シリーズコラム【知っておきたい 信用調査・与信管理のよろず知識】では、主に定性分析に役立つ知識を中心に信用調査や与信管理に関する様々な知識やノウハウをご紹介しています。なお、定量分析(財務分析)については、別の連載シリーズ【与信管理における定量分析の基本】で解説しています。
また、本連載シリーズは、トーショーの公式YouTubeにて配信している【シリーズ動画『信用調査・与信管理 よろず話』】ともリンクした内容となっておりますので、あわせてご覧いただきますと、より理解が深まります。是非ご視聴ください。
>>#10:与信管理の組織体制と情報の入手経路(直接情報/間接情報)(2026年2月配信)
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<目次> ■与信管理における組織体制と役割 |
前回(第7回:取引先の信用状況把握に必要な定量情報と定性情報)は、焦付きを防ぐための取引先に関する情報について、特に定性情報入手の重要性について解説しました。今回は、取引先の信用上の変化に気づくための情報の入手ルートや、その前提となる与信管理の組織体制について考えてみたいと思います。
■与信管理における組織体制と役割
取引先の危険な兆候を捉える「気づき」情報の入手経路について見る前に、まずは与信リスク管理の組織体制について触れておきます。
業種や業態、企業規模によって様々ですが、与信管理を専門に行う部署を設けている会社もあれば、他の業務と兼務している会社もあります。
・専門部署の例:与信管理部、与信審査部、法務審査部 など
・兼務部署の例:財務部、経理部、法務部、総務部、経営管理部 など
いずれにしても、一般的には「管理部門」が与信リスク管理の担当部署となっていることがほとんどです。
組織の役割は、よく自動車に例えられます。直接的に売上を獲得し業績に責任を持つ営業部門が「アクセル」、取引の健全性を確保するために営業活動を牽制する管理部門が「ブレーキ」です。企業が適正な利潤を獲得し健全に発展するためには、どちらの役割も欠かせません。
しかし、お互いの立場の違いから衝突が生じることがあります。これは、それぞれの役割の重要性に対する理解不足から生じる齟齬(そご)と言えます。自動車と同様に、アクセルばかりでは事故を避けられませんし、ブレーキばかり踏んでいては目的地に到達できません。
営業部門や営業担当者が「自らもリスクを負っている」という認識(与信マインド)を持っていないと、管理部門がいくら財務分析等で取引先を分析・管理しても、与信管理は成功しません。
リスク管理の分野には、「3線ディフェンス(3つの防衛線)」という有名なフレームワークがあります。金融庁が公表した資料などでも示されている考え方で、与信リスク管理においても非常に参考になります。
金融庁「コンプライアンス・リスク管理 基本方針」(2018年10月)より筆者加工
| 1線 | 事業部門による自律的管理 | 事業部門は、収益を生み出す事業活動に起因するリスクの発生源であり、一般的に、リスク管理の第一義的な責任を有すると考えられる。したがって、事業部門自身による現場での管理態勢については、事業部門の役職員自身が、コンプライアンス・リスク管理の責任を担うのはまさに自分自身であるという主体的・自律的な意識の下で、業務を実施していくことが重要となる。 |
| 2線 | 管理部門による牽制 | コンプライアンス部門・リスク管理部門等の管理部門は、事業部門の自律的なリスク管理に対して、独立した立場から牽制すると同時に、それを支援する役割を担う。また、リスクを全社的にみて統合的に管理する役割も担う。そのため、管理部門は、事業部門の業務及びそこに潜在するリスクに関する理解と、リスク管理の専門的知見とを併せ持つことが求められる。
管理部門がこれらの重要な機能を十分に果たすためには、経営陣が主導して、管理部門の役職員に十分な権限 や 地位を付与するとともに、その独立性を担保することや、十分な人材を質及び量の両面において確保することが必要となる。 |
| 3線 | 内部監査部門による検証 | 内部監査部門は、事業部門や管理部門から独立した立場で、コンプライアンス・リスクに 関する管理態勢について検証し、管理態勢の構築やその運用に不備があれば、経営陣に対し指摘して是正を求め、あるいは管理態勢の改善等について経営陣に助言・提言をすることが期待されている。 |
取引先と直接接触している第1線の営業担当者や営業部門の「与信マインド(リスクマネジメント意識)」が高く、取引先の信用状況の変化に敏感に反応できる体質であれば、大きな焦付きリスクが発生することは少なくなります。また、第2線の管理部門についても、単に牽制するだけでなく「支援する」という意識を持つことが極めて重要です。
■取引先情報の2つの入手ルート
与信管理において、取引先の危険信号を察知するための情報入手ルートには、大きく分けて「直接入手ルート(≒内部情報)」と「間接入手ルート(≒外部情報)」の2つがあります。

⑴直接入手ルート(社内・営業現場からの情報)
最も重要なのは、営業担当者が日々の営業活動の中で直接入手する“気づき”情報です。
業績悪化や支払延期の要請といった明確な兆候はもちろんですが、よりかすかな変化にも気を配る必要があります。例えば、「会社の雰囲気が暗くなった」「スタッフの退職が増えた」「取引先の担当者から会社に対する愚痴が増えた」といった情報も、重要な変化の兆候です。
あるベテランの与信審査担当者は「営業マンは会社のアンテナである」と語っています。与信管理の主役は審査部などの管理部門だけではなく、現場の営業担当者が持つ与信マインド(与信リスク意識)そのものなのです。
一方、社内の管理部門も取引先のデータ変化に気を配る必要があります。取引履歴データや取引推移を確認することで、異常性を発見できる場合があります。たとえば、ある取引先への売掛債権が最近になって急激に増加した場合、それも大きな“気づき”です。放置せず、増加した原因を確認しなければなりません。営業努力による売上増加であればポジティブな要素ですが、競合他社がその取引先の危険な兆候を察知して撤退した結果、自社に注文が回ってきている(いわゆる「ババを引かされている」)可能性もあります。
現場で色々な変化に気づいていながら、経営陣や適切な与信判断を行う部署へ共有されずに焦げ付いてしまうケースは少なくありません。適切なコミュニケーションによる情報の吸い上げと社内共有は、与信管理における極めて重要な課題です。
⑵間接入手ルート(外部からの情報)
直接入手する情報や社内情報は非常に重要ですが、自社だけで取引先を365日24時間モニタリングすることは困難です。そのため、外部の「目」や「耳」を活用することが不可欠となります。
業界内で流れている信用不安の噂をはじめ、評判や信用調査会社からの情報など、外部から入ってくる情報にも常にアンテナを張っておく必要があります。
噂のあった会社が必ず倒産するわけではなく、同業者による意図的な悪評など事実に反する情報が含まれる可能性もあります。しかし、信用不安情報が存在した会社の倒産確率が高いのも事実です。倒産した企業の多くは、事前に何らかの信用不安情報が流れていた経験則があります。外部からの噂であっても先入観で切り捨てず、改めて取引先の信用調査を行うなど、放置しない姿勢が求められます。
■社内外の「両輪」を回す重要性と理想的なコミュニケーション
企業は自社のネガティブな情報が表に出ないようコントロールしているため、倒産するまでの兆候はすべて“グレー”な状態です。噂情報も不確実なものが多く含まれます。だからこそ、社内(直接)と社外(間接)の情報ルートという「両輪」を回すことが重要になります。
例えば、取引先の信用不安の噂に接した場合には、自ら現場に足を運び、実際にそのような事象が起きているか確認します。一方で、自らが取引の現場や営業活動の中で取引先のかすかな変化に気づいた場合、外部に同様の不安情報がないか確認したり、信用調査会社へ追加調査を依頼したりするなど、情報の精度を高める行動が必要です。
グレーな情報も1つより2つ、2つより3つとより多く集まることで、情報の量・スピード・質が高まり、確度が増していきます。
そして、この内と外の両輪を正しく機能させるために不可欠なのが、営業部門と管理部門の連携および日頃のコミュニケーションです。与信管理担当者の中には「営業から報告が上がってこない」と悩む方もいますが、多忙な営業担当者からの連絡を待つだけでなく、自ら足を運んで聞きに行く姿勢も時には必要です。
管理部門は得られた情報をもとに与信先を正確に分析し、営業部門へ注意喚起(アテンション)を行うこと。そして、営業部門は、注意喚起を真摯に受け止め、新たな視点で取引先を観察し、現場で得た情報を管理部門へフィードバックすること。このようなやり取り、コミュニケーションがスムーズであることが、組織的な与信管理のレベルを高める理想的な循環と言えるでしょう。
次回以降も、与信管理における情報収集に関連するテーマで、より具体的に深く掘り下げて解説していきます。
■YouTubeでも詳しく解説!
本ページの内容は、トーショーの公式YouTubeにて配信している【シリーズ動画『信用調査・与信管理 よろず話』】ともリンクした内容になっています。動画ではより詳しい解説をしていますので、以下のリンクから動画を是非ご視聴ください。
>>#10:与信管理の組織体制と情報の入手経路(直接情報/間接情報)(2026年2月配信)
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