2026年9月11日
この連載シリーズコラム【知っておきたい 信用調査・与信管理のよろず知識】では、主に定性分析に役立つ知識を中心に信用調査や与信管理に関する様々な知識やノウハウをご紹介しています。なお、定量分析(財務分析)については、別の連載シリーズ【与信管理における定量分析の基本】で解説しています。
また、本連載シリーズは、トーショーの公式YouTubeにて配信している【シリーズ動画『信用調査・与信管理 よろず話』】ともリンクした内容となっておりますので、あわせてご覧いただきますと、より理解が深まります。是非ご視聴ください。
>>#09:取引先の信用状況把握に必要な定量情報と定性情報(2026年1月配信)
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<目次> ■決算データなどの「定量情報」 |
前回(第6回:企業が倒産に至るプロセスを理解する)は、企業が倒産するまでの典型的なプロセスについて解説し、与信管理において焦付きリスクを回避するためには、取引先の倒産の前兆を捉えることが重要であることをお伝えしました。
今回は、取引先の信用状況を把握するための情報には、どのような性質のものがあるのかを解説します。

■決算データなどの「定量情報」
信用調査と聞くと、まず決算書の分析を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。
決算データなど、取引先に関する数値情報は「定量情報」と呼ばれます。会社の経営成績を示す損益計算書や、会社の財産状況を示す貸借対照表を分析することで、その会社のベースとなる信用程度を把握することができます。定量情報は、与信調査の基礎といえるものです。
しかしながら、決算データのような定量情報には、メリットだけでなくデメリットもあります。
まず銀行などの金融機関は別として、事業会社の与信取引においては、そもそも取引先の決算書を入手できないケースも少なくありません。大手信用調査機関をはじめ、専門の調査会社であっても特別な調査権限があるわけではないため、決算書の入手率はそれほど高くないのが実情です。
また、取引先の決算データを入手できたとしても、それは過去の一時点の情報に過ぎません。リアルタイムの情報ではないという点にも注意が必要です。
さらに、定量情報における大きなリスクとして、粉飾決算のリスクがあります。入手した数字をどこまで信頼できるのかという問題です。過去の倒産企業の多くでは、倒産後に粉飾決算が発覚しています。しかし、事前に粉飾決算を見破ることは容易ではありません。
■事象や評判などの「定性情報」
決算書などの定量情報以外の取引先に関する情報のほとんどは、数字では表せない「定性情報」に該当します。
ヒト・モノ・カネなどの経営リソース、出来事、噂、評判など、さまざまな情報が定性情報に該当します。たとえば、取引先の経営者の性格や資質などは数値化が難しい情報の代表例ですが、中小企業の与信を判断するうえで欠かせない情報です。
取引先の危険な兆候や、倒産につながる変化を察知する場面は、決算書を眺めているだけで分かるものではありません。ヒト・モノ・カネにまつわる定性的な情報から把握できることが多いため、取引現場の内外から定性情報を収集することが重要な鍵となります。
■定量分析と定性分析
なお、定量情報を用いて取引先の信用を分析することを「定量分析」といいます。定量分析と財務分析は、ほぼ同じ意味合いで使われています。

定量情報や定量分析については、別の連載シリーズ【与信管理における定量分析の基本】で解説しています。また、トーショーチャンネルで配信している全100回のシリーズ動画でも詳しく解説していますので、そちらをぜひ参考にしてください。
一方、定量情報以外の定性情報による分析は「定性分析」といいますが、次の項目で具体的な分析の着眼点を説明します。
■定性情報(定性分析)の切り口 ~ヒト・モノ・カネ・情報~
下表は、主な定性情報・定性分析の切り口を簡潔にまとめたものです。
| ⑴経営者 | 性格・資質(技術者タイプ・商人営業タイプ・実業家タイプ・管理タイプ)・経営手腕・統率力・実績。中小企業の信用力の最重要ポイントは経営者 |
| ⑵経営体制・組織・文化 | 役員構成(番頭・補佐役の存在)、後継者の有無、経営組織、企業体質・企業文化、従業員の士気(会社の雰囲気)、など |
| ⑶企業の沿革・業歴 | どんな企業も「過去があって現在がある」。時系列で、取引先に起きた出来事や歴史を整理し、存立基盤を把握 |
| ⑷資本背景/グループ | 親会社の信用力、グループ会社の経営状況 |
| ⑸事業性(ビジネスモデル) | 取り扱い製品・商品・サービスの競争力、設備・生産能力、仕入/販売ルート、など |
| ⑹業界の動向(市場) | この企業が属する業界の好不況。構造不況業種、ミズモノ業種などに注意 |
| ⑺保有資産・取引銀行 | 担保余力など資金調達能力。取引金融機関との関係性。特に不動産調査が有効 |
| ⑻評判・噂 | 定性情報の最たるもの。取引先の変化、倒産の危険をタイムリーに察知するためにも、入手に努めることが与信管理上の重要課題。信用調査の業界用語では、「信用情報」ということが多い(特にネガティブなものは「信用不安情報」とも) |
⑴経営者
特に中小企業の信用分析において最も重要なのは、取引先の経営者の資質や経営能力です。与信審査の経験が豊富な人のなかには、「中小企業は経営者がすべてと言っても過言ではない」と指摘する人も少なくありません。それほど経営者の手腕は重要です。中小零細企業と与信取引を行う場合には、相手先企業の経営者と面談し、その人となりをよく観察することが必要です。
⑵経営体制・組織・文化
経営体制については、近年、経営者の高齢化が課題となっています。後継者がいるかどうかは、企業の存続にとって重要なポイントです。
また、会社の雰囲気や従業員のモチベーションなど、訪問時に感じ取ることができる情報も重要です。一般に、経営が順調な会社では挨拶が活発で活気が感じられる一方、倒産寸前の会社では雰囲気が暗いと感じられることがあります。
こうした点からも、与信管理において営業活動での「訪問」は重要です。近年はオンラインでの取引やメール、Web会議などで取引が完結しがちです。しかし、それだけでは取引先の変化に気付くことが難しくなります。時代が変わっても、BtoBビジネスにおいて営業担当者が取引先を訪問することの重要性は変わりません。
⑶企業の沿革・業歴
企業の歴史、すなわち業歴も重要な確認項目です。一般的に、業歴が長いことは一つの信用背景になります。ただし、過去にトラブルがなかったかどうかも、可能な限り調べて把握する必要があります。現在の状況だけでなく、過去の情報も非常に重要です。
⑷資本背景/グループ
資本背景も重要なチェックポイントです。たとえば、これから取引を行う企業の業歴が浅く、財務内容も債務超過であったとしても、親会社が超一流の優良企業であれば、与信取引ができる場合もあります。
反対に、直接の取引先自体には一見問題がなさそうでも、グループ会社に経営上の問題を抱えた会社があるかもしれません。そのため、取引先単体だけではなく、企業グループ全体を見渡す必要があります。
⑸事業性(ビジネスモデル)/⑹業界の動向(市場)
事業性や業界の動向については、主にマーケティング戦略的な観点から、企業の強みや弱み、その企業が置かれている経営環境を分析します。たとえば、その企業が構造不況の業種に属している場合には将来性に疑問が生じますから、時代に合わせて事業を再構築できるかどうかを慎重に見極める必要があります。
⑺保有資産・取引銀行
担保余力や取引銀行との関係性など、資金調達能力を調べることも重要です。不動産登記は誰でも取得でき、抵当権などの登記を確認することで、取引金融機関を把握したり借入状況を推測したりすることができます。そのため、信用調査では一般的に不動産登記情報は広く活用されています。
⑻評判・噂
与信管理において特に重要となるのが、取引先に関する評判や噂を捉えることです。信用調査の専門用語では、こうした情報を「企業信用情報」と呼びます。
「あの会社は商売がうまくいっていないらしい」といったおぼろげな噂もあれば、「支払いが遅れている」「従業員が大量に辞めている」といった明らかな信用不安情報まで、内容はさまざまです。
企業は「生き物」といわれます。特に中小企業の経営状況は刻一刻と変化するため、年に1回の決算書情報だけに頼っていては、取引先の危険な兆候に気付くことができません。同業者や信用調査会社などにも日頃からアンテナを張り、できる限り取引先の変化を察知できるようにしておく必要があります。
噂や評判など企業の信用情報を得る目的は、単に未知の情報を得ることだけではありません。与信判断においては、その取引先を取り巻く利害関係者がその企業をどのように見ているかを知ることが重要です。なぜなら、企業が倒産するのは、赤字になったときや債務超過になったときではなく、それによって利害関係者から信用を失ったときに、事業継続が困難となり倒産へ至るからです。
客観的な定量分析はもちろん重要です。そのうえで、取引先のほかの利害関係者がその会社をどのように見ているのか、その評判にも耳を傾けることが重要と言えるでしょう。
■YouTubeでも詳しく解説!
本ページの内容は、トーショーの公式YouTubeにて配信している【シリーズ動画『信用調査・与信管理 よろず話』】ともリンクした内容になっています。動画ではより詳しい解説をしていますので、以下のリンクから動画を是非ご視聴ください。
>>#09:取引先の信用状況把握に必要な定量情報と定性情報(2026年1月配信)
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