魔の川、死の谷、ダーウィンの海TOPICS

2023年2月21日

新興企業に対する与信判断の難しさ

「商品化時期を延期し、更なる研究開発を行うことにした。(中略)追加の研究開発として十分な金額の出資を得られなかったことから、申立人の財務状態は悪化の一途を辿った。」

これは当時マスコミや世間からも大きな注目を集めていた、あるスタートアップ企業の破産時の申立書からの抜粋です。同社は、国内外の著名な企業・投資家などから多額の資金を調達し、各方面で期待を集めていた一方、世界初とされた画期的な家電製品の開発・量産化が難航し、度重なる計画変更と販売延期を余儀なくされました。

このようなイノベーションを起こさんとする新興企業に対する与信判断の難しさは、長年の業歴があり事業内容も従来から広く知られる企業と比べ、与信根拠となる経営実績や財務体力に見るべきものはなく、加えてその将来の事業性を評価するのも難しいという点です。

 

スタートアップ企業の前に立ちはだかる3つの関門

筆者は数年前に「中国のテスラ」と呼ばれ脚光を浴びる某新興EVメーカーの信用調査を実施したことがありましたが、設立以来、長期にわたり毎期大きな赤字を計上している一方、巨額の資金調達を繰り返しており、その信用評価は本当に難しいと感じます。ちなみに、「中国のテスラ」と呼ばれ、持て囃される企業は多数あるのですが。

スタートアップ企業の与信判断においては、その技術的な評価も専門知識がなければ難しく、例え創業者がそういった技術的な背景があると裏付けがとれたとしても、それが製品化・量産化され、マーケティング的にも成功して実際に事業が軌道に乗るかというと、これはまた別問題です。

一般に技術革新を実現し、研究開発から事業化を実現するまでには、魔の川、死の谷、ダーウィンの海と呼ばれる3つの障壁があると言われます。魔の川は、基礎研究の段階から製品開発の間にある障壁で、死の谷は、製品開発段階と量産化・事業化していく段階の間にある障壁です。そして、ダーウィンの海では、企業同士の過酷な生存競争が繰り広げられる市場の壁が立ちはだかります。

 

資金調達動向に着目。ただし、落とし穴も

新興企業は、シード期、スタートアップ期、急成長期、安定成長期でその成長段階を区分されることも多いですが、安定成長期に至るまでは、先行投資がかさみキャッシュフローはマイナスですから、上記の製品化・事業化のプロセスと併せ、資金調達の巧拙、資金の出し手の状況などを注視することが最も重要です。少なくともそれなりの出資者がいるということは、事業性を評価している第三者の存在が、間接的に信用を裏付けてくれることにもなり、与信判断の参考にはなります。

ただし、注意したいのは、「追随取引の危険」です。「著名な投資家が投資しているから」とか、「有力企業が与信取引しているから」という理由だけで、安易にその取引先に出資したり与信取引を開始したりしてしまうことは危険であるということです。冒頭の破産会社の事例でも、著名企業の出資に安心し、後から出資したり取引に参加したりしたと思しき追随者が損失を出した模様です。

やはり、新興企業の与信判断に近道はなさそうです。事業の実態、経営者の能力、資金調達動向など、社歴の長い企業の何倍もこまめに注意深く観察するよりほかありません。政府は成長戦略で新興企業への年間投資額を2027年までに現状の10倍超の10兆円前後に増やす数値目標を定めました。今後も、スタートアップ企業等との取引についての与信判断を迫られる場面が増えることが予想されます。

(QSYH)

 

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