“私的整理”の変遷と、コロナ後に向けての動向TOPICS

2021年8月12日

コロナ対応金融政策の副作用、企業の過剰債務問題

コロナ禍におけるゼロゼロ融資などの各種支援策により、日本企業の債務残高は2019年12月末から1年間で52兆円増加し、2020年12月末に622.5兆円となりました。ポストコロナにおいては、過剰債務問題への対処が重要課題となりますが、6月に閣議決定された政府の新成長戦略において、‟私的整理”に関する複数の検討方針が盛り込まれました。

 

私的整理とは? 準則型私的整理の歴史と現状

私的整理は、裁判所が介入せず、当事者の話し合いによって債務整理を図るものです。かつては債権者による違法スレスレの手荒い債権回収や、整理屋と呼ばれる悪筋の介在なども珍しくなく、不公平な債務弁済が行われるという問題がありました。しかし、法律法規の整備や社会的風潮の変化もあり、このような極端なデメリットが生じるケースは減りました。

一方で、私的整理のメリットとしては、裁判所が関与した厳格な手続きではなく、当事者の協議によるため、低コストで柔軟迅速な処理が可能であることが挙げられます。さらに、法的整理を選択した場合の「倒産」事実の確定と、それによる事業価値の棄損を避けることができ、再生を図る場合に不可欠な取引関係の維持・継続に繋げやすいこともメリットです。

こうした流れのなかで、私的整理と法的整理の双方のメリットを生かした「準則型私的整理」の仕組みが整備されてきました。これは、私的整理に一定のルールを設け、手続きの透明性を高め、不正行為や不公平な債務弁済が行われないような工夫です。中でも歴史があるものは2001年に公表された「私的整理に関するガイドライン」で、現在他にも様々なスキーム(※下表参照)が知られています。準則型私的整理は、普通は金融債務に限定され、一般事業債権者のあずかり知らぬ水面下で遂行されます。

 

政府の新成長戦略に盛り込まれた私的整理に関する検討方針、その影響は?

さて、今回の政府の成長戦略には、①大企業・中堅企業の事業再構築・再生の環境整備として「私的整理等の利便性の拡大のための法制面の検討」をすること(また、事業再生ADRから簡易再生手続への円滑な移行の推進を含む)、②「中小企業の実態を踏まえた事業再生のための私的整理等のガイドラインの策定」について検討すること、が方針として盛り込まれました。従来の私的整理ガイドラインの数値目標要件である「3年以内の債務超過解消」を「5年以内」に緩和するとの話が出ている模様です。
いずれにしても、これら政府施策の検討は私的整理活用の積極化ということになります。政府はコロナ禍で金融機関に対し、「お金をどんどん貸しなさい」という指導をしてきました。それが今度は、極端な話「債権をカットせよ」という話ですので、政策的な矛盾も感じられます。また、過剰な救済策により、企業経営におけるモラルハザードの更なる深刻化も懸念されるところです。

(鷹車)

 

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