「そういえば…」 大粉飾事件のシグナルTOPICS

2024年4月3日

まさかの第一報から調査に着手

「A社が危ないとの話があるのだが、何か知らないか」 仕事を終え缶ビールを片手に晩酌のひと時、筆者の携帯にそんな電話がかかってきた。A社といえば、大手精密機器メーカーの正規代理店であり、知る人ぞ知る有力企業だ。そんなA社が「まさか・・・」と、まず耳を疑った。

しかし、以前のトピックス『与信審査に先入観は禁物!』 で取り上げた某有力鶏卵業者の破綻も、「まさか・・・」が現実になったのだ。今回も、そうならないとは限らない。自戒の念を胸に、翌朝一番で同社に赴くことにした。

現場にはいわゆる“張り紙”の類もなく、通常どおり営業している様子が伺われた。「やはりガセか…」との考えがよぎるも、やはり直接確認が肝要と受付の内線電話を手にとる。

「調査会社のものです。不躾ながら、御社について少し噂を耳にしたのですが、事実確認をさせてくれませんか」

すると女性社員が応対し、「この方が、全てを話してくれると思いますよ」と、筆者に一枚の名刺を渡した。それは某法律事務所の弁護士の名刺であった。「いったい何が起きているというのか・・・」

 

世間を騒がす大粉飾事件の発覚

筆者は、その後、A社の仕入先にあたるメーカー、同業者などと情報交換を行うのだが、皆一様に異変には気付いていない様子であった。ある人は「懇意にしているA社の購買担当者に、うちの営業が会って話をしたが、普通に営業しているし、そんな話はないと・・・」

すかさず筆者が「でも、私はまさにA社の前にいて、実際に弁護士の名刺を渡されたばかりです。事務所から出てきた人に、たった今、渡されたのですよ」と言うと、「さっき、うちの営業がA社購買担当者と会って話をしたというのに、なんてことだ、まったく」と、まだ信じられない様子であった。

その日の午後、A社仕入先関係者がその法律事務所を訪れ、A社の長年にわたる粉飾決算と、すでに債務が履行できない状況に陥っているという事実が判明するのである。

粉飾の顛末等は、週刊誌などにも取り上げられ、史上まれに見る大粉飾決算事件として騒がれた。粉飾で得た資金で、A社代表が高級住宅地や別荘地に複数の不動産を購入し「会社とは関係のない女性たち」を住まわせる、代表個人や代表が経営するほかの複数社への多額の資金を還流させるなどの事実が明るみになったのだ。

騙された金融機関は50を超えるというが、債権者説明会で、代表からは謝罪を含め、一切の発言はなかったという。

 

事前に発せられていたシグナル

事後に業界関係者からは、「そういえば、A社社長は、いろんな会社を経営していて、生活ぶりも派手な印象があった」など「そういえば」の枕詞とともに、様々な話が聞けた。

「そういえば、ここしばらく社長は不在がちだったようだ。危機情報については社長に直接確認しないとだな。こういう時のためにも社長や役員とも関係を作っておかないと」

「そういえば、A社は事業環境の移り変わりが激しいなか、常に安定した収益を上げていたのは、やはりおかしかったな。この業界は手堅い部分もあるがそんなに儲かる仕事ではないし、需要の波はあるからね」

今回も与信管理において、先入観は禁物であるということと、日頃の些細な「気づき」が実は大きなシグナル情報となっていたということが教訓として示された形だ。

「先日、取引行からモノとカネの流れを確認させてほしいと連絡がきた。今まではなかったことだ・・・。A社のせいで、この業界の信用はがた落ちだな」と、ある業界関係者がつぶやいた。大粉飾事件の余波はまだ収まらない。

(Mt.C)

 

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