2022年2月8日
2022年1月31日スタートの新制度の概要
マネー・ロンダリング対策推進の国際的な取組に関する報道を目にする機会が増えました。FATF(金融活動作業部会)という国際組織が中心となり、テロへの資金供与防止の観点からも、各国は対策の徹底を迫られています。日本の法務省も、その対応の一環として、「実質的支配者リスト制度」を創設し、2022年1月31日より運用を開始すると発表しました。
同制度の詳細や実質的支配者の定義については法務省ホームページを参照 して頂ければと思いますが、「株式会社(特例有限会社を含む)からの申出により、商業登記所の登記官が、当該株式会社が作成した実質的支配者リストについて、所定の添付書面により内容を確認し、その保管及び登記官の認証文付きの写しの交付を行うもの」とされています。
この制度が想定している代表的な利用方法としては、金融機関が新たに口座を開設しようとする企業に対し、審査書類として、登記所(法務局)が交付する「実質的支配者リストの写し」の提出を求めるというようなスキームです。
諸外国では株主等の会社の所有者が登記事項となっている国もありますが、日本の商業登記では会社の役員は登記事項ですが、会社を実質的に支配する者が誰なのかはわかりません。今回の新制度創設は、商業登記に実質的支配者が登記されるというところまで踏み込んだものではありませんが、金融機関などの利害関係者による顧客のバックグラウンドチェック機能が向上する効果は期待されます。
取引先コンプライアンスチェックに活用することも一案
さて、金融機関だけでなく事業会社の与信審査でも、反社チェックは当然として、取引先のコンプライアンスチェック=KYC(Know Your Customer)の必要性は、各社で強く認識されるようになっているかと思います。取引関係において、取引先(与信先)から「実質的支配者リストの写し」を徴求することはややハードルが高いようにも思えますが、取引先コンプラチェックの手法として、検討する価値はあるかと思われます。
余談ですが、この制度創設を検討してきた有識者会議(商業登記所における法人の実質的支配者情報の把握促進に関する研究会)の議論の段階においては、「本制度を利用した法人については、実質的支配者リストが保管されている旨が登記簿に付記され、登記事項証明書にもその旨を記載することを想定」するとしていました。仮にこの付記があれば、その会社は「実質的支配者リスト」を商業登記所に届出しているということがわかるため、「求めがあれば実質的支配者リストの写しを提出することのできる透明性の高い会社である」と、間接的に伺い知ることができる可能性がありました。
しかしながら、筆者が、2021年12月現在、法務省民事局に問い合わせたところ、運用開始後に「そのような付記」が商業登記にされる正式な予定はないとの回答であり、今のところ、取引先の商業登記を見ることで、実質的支配者リストの届出会社かどうかを判別できるようになるわけではないようです。
リスト記載内容は、届出ベースであることに留意
最後に、この制度の活用上の注意点としては、仮に取引先から法務局が交付した「実質的支配者リストの写し」を入手できたとして、そのリストは、その会社からの申告ベースで作成されたもので、登記所が審査しているわけではないため、「記載されている内容が事実であることを証明するものではない」ということにも、留意する必要があります。
(三代目)
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