公租公課滞納倒産と小規模会社更生TOPICS

2025年12月24日

 

増える公租公課滞納企業の倒産

公租公課、すなわち税金や社会保険などの滞納企業に対する差押の執行が「最後のとどめ」となり、あえなく倒産に至る企業が増えています。特に社会保険については赤字でも納付義務があるため、保険料の滞納処分により経営再建がかなわず、倒産に至る企業が目立ちます。

年金事務所による強硬な徴収姿勢を報道等で批判的に論じているものもありますが、一方、公租公課はすべての企業が公平に納付する義務を負っているはずです。企業の倒産時にも、公租公課は他の債権に優先して取り扱われることになっています。年金事務所が債権回収に尽力するのは当然ともいえ、なかなか難しい問題です。

年度別 滞納事業所数と差押執行事業所数

年度別 滞納事業所数と差押執行事業所数の推移 グラフ

※上の図とグラフは、日本年金機構が公表しているデータをもとに筆者が作成したものです。

 

日本年金機構の公表データによれば、コロナ禍中の2020年度の滞納事業所数は前年度の14万強から約16万事業所に増加した一方で、同年度に滞納処分としての差押が執行されたのは、前年度の10分の1程度の3,357事業所と大幅に抑制されていました。これは、2020年4月より新型コロナの影響を鑑み、年金事務所の滞納処分業務が原則停止されていたからです。

2021年4月からは、滞納金額が1000万円以上の優先度の高い事業所に限定し、滞納処分業務が再開されました。そのため、2021年度の差押執行事業所数は6,781事業所と前年度から倍増しましたが、まだ抑制的でした。

差押が顕著に増えたのは2022年度です。これは、2022年2月から滞納金額の限定基準も解除され、適切な納付計画の提出に応じなかったり、計画の不履行等が生じたりした事業所に対して滞納処分が実行されたためで、27,784事業所と大幅に増えました。2023年度の差押執行事業所数は42,072事業所とさらに増大し、コロナ感染症拡大前の水準を大幅に上回る数となりました。

この頃より、報道等も「社保倒産の急増」「公租公課滞納倒産の増加」といった形でさかんに取り上げ、話題に上ることが増えてきました。再生途上にある企業が、滞納処分によって再建を断念せざるを得ない状況を一部の政治家や政党も問題視し、政府も対策に乗り出しました。

政府は2024年6月から「事業再生情報ネットワーク」の運用を開始しました。これは、公租公課の徴収主体である年金事務所や税務署等に、金融機関や公的機関等による支援状況を共有する仕組みとして創設されたものです。

しかし、数字を見る限り、この仕組みが機能したようには見えません。2024年度における差押執行事業所数は、コロナ前の水準の倍近い59,548事業所とさらなる増加を示すこととなりました。

 

「小規模会社更生」で再建に道筋をつけられるか

こうした中、今年4月、東京地裁民事20部(倒産部)は、負債50億円未満のDIP型を対象に、簡易・迅速な会社更生手続である「小規模会社更生」の運用を開始しました。

会社更生法は、公租公課や担保権も更生手続内に取り込んで再建を図ることができますが、費用も時間もかかるため、小規模案件での適用は現実的ではありませんでした。「小規模会社更生」は民事再生事件と同程度のスケジュールに従った迅速な手続進行が特徴で、予納金も従来より大幅に抑えられるということです。

民事再生法を適用すると、公租公課を優先的な債権として全額納付することになり、結局破産せざるを得ないようなケースにおいて、新たに運用が始まった「小規模会社更生」では、公租公課も手続内に取り込み再建に道筋をつけられる可能性が出てきます。これが新制度の一つの狙いとも言われており、実際に制度の活用が広がるかどうか、今後の動向が注目されます。

( QSYH)

 

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