【与信管理実務】取引実行時における契約書締結
~契約書の重要性、契約書作成における注意点、債権保全・回収に役立つ条文~

2025年11月18日

 

取引先に対する与信管理関連業務としては、まず取引開始前に行う与信判断が大事になりますが、与信判断後「では取引を始めましょう」となった際には契約書の締結が必要になります。本ページでは、取引開始時における契約書締結に関して、契約書の重要性や契約書作成時における注意点、債権保全・回収時に役立つ主な条文について説明します。

本ページの内容はトーショー公式YouTubeで配信しています、総合商社・事業会社で与信審査40年のプロが解説する『与信管理実務スペシャル動画』シリーズともリンクした内容になっております。動画ではより詳しく解説していますので併せてご覧いただきますと、より理解が深まります。ぜひご視聴ください。

>>トーショー公式YouTube【与信管理実務】取引実行時の確認作業①:契約書の重要性
>>トーショー公式YouTube【与信管理実務】取引実行時の確認作業②:契約書作成における注意点とは?
>>トーショー公式YouTube【与信管理実務】取引実行時の確認作業③:債権保全・回収に役立つ主な条文は?

 

<目次>

■契約とは?法的拘束力とは?
■契約書を取り交わすことの重要性
■契約書の立ち位置
■契約書作成における注意点
■有効な契約書を作成するための4要素
■契約書の証拠力を強めるためにはどうするか?
■契約書の強制履行力を高めるためにはどうするか?
■相手の同意が得られず、契約書を作成できない場合の対処法
■債権保全・回収に役立つ契約書の主な条文
└ 期限の利益喪失条項
└ 契約解除条項
└ 所有権留保
└ 債権譲渡禁止条項
└ 専属的合意管轄裁判所

 

■契約とは?法的拘束力とは?

取引開始時には必ず契約書を作成し相手と取り交わしますが、そもそも「契約」とは何でしょうか。一言で表すと“両当事者間の合意”または“意思の合致”といえます。物品の売買であれば、相手に対し物品を売る・相手から物品を買うという事になります。サービスの場合であれば、サービスの提供・サービスを受けるという事で、こういった事が両当事者間で合意されれば「契約」となります。

では、契約書の「法的拘束力」とは、どのような意味を持つのでしょうか。両当事者間で契約の合意ができた際には、債権・債務をお互いに持つことになりますが、債務者が債務履行しなかった場合には、債権者は法律の保護を受けられます。法律の保護とは裁判所に訴えることができるということです。これが契約書の「法的拘束力」です。言葉を変えれば履行の強制ができるということになります。

 

■契約書を取り交わすことの重要性

契約は口頭でも成立しますが、契約内容をきちんと書面に残しておくことが重要です。というのも、口頭での契約は言った言わないの水掛け論につながる恐れがあるためです。

書面といっても形式やタイトルにこだわる必要はなく、「商品売買契約書」のようなタイトルをつけなくても問題ありません。「念書」や「覚書」であっても、両者が合意していれば問題なく契約書となります。大事なのは契約書の中身です。しっかり契約内容が記載されていれば、それは契約書となるのです。売買契約であれば「注文書」と「注文請書」で立派な契約書類として成立します。

契約書の取り交わしが重要な理由は、まずは先述した通り、①言った言わないという当事者間の紛争を防止するためです。また、②裁判になった場合、有力な証拠となります。裁判において、契約書は証拠力が極めて高いです。そして、万が一相手側が倒産しそうな場合、もしくは倒産してしまった場合には債権回収に走ることになりますが、③有利な債権回収と保全のためにも契約書は重要です。債権回収に関しては、契約の規定に従って行動しなければいけません。民法にも規定はされていますが、それだけでは内容が不十分です。そのため、あらかじめ契約書に、こういった際にはこうした対応をしますという条文を入れておけば債権回収時の行動が明確になります。

 

■契約書の立ち位置

ところで、当事者間で結んだ契約書の条文と、民法や商法や会社法はどちらが優先されるのでしょうか。これは、私的に結ぶ契約書が優先されます。次に商法や会社法に従いそちらでも書かれていない場合には民法に従うことになります。民法は一般法ですが、一般法よりも商法や会社法等の特別法が優先されると決まっているためです。

では、個別契約書と基本契約書の優先順位はどうでしょうか。これは個別契約書の方が優先されます。もし、基本契約書に書いてある内容と注文書・注文請書(個別契約書にあたります)に書いてある内容(決済条件や商品名など)に齟齬がある場合には、個別契約書の方が適用されることになっています。

基本契約書とは、継続取引において共通する基本的な内容を定めたものです。だいたい20条~30条ぐらいが記載されており、数ページの書式になっていることが多いです。両当事者間において、繰り返し且つ継続して長い期間の売買を行う場合には、基本的な事項を基本契約書に明記しておくと、取引の度に都度契約書を締結せずに済むため便利です。基本契約書に記載される主な内容は、商品名や代金支払い条件、製造物責任や知的財産権、いざとなった場合の相殺についての取り決め、期限の利益の喪失、履行の停止・即時解除、有効期間、損害賠償規定等が挙げられます。

契約書イメージ写真

 

■契約書作成における注意点

では、契約書作成時にはどういったことに気を付ければよいのでしょうか。主な観点としては以下の3つが挙げられます。

① 相手側の契約締結権限をチェック

まず、相手側の会社の方は契約締結権を持っているのかどうかを確認します。これが一番大事と言っても過言ではありません。権限のない社員の方が契約書を締結しても、契約書は有効になりません。通常は代表取締役と契約書を締結することが基本です。ただし、会社によっては支店長や部長と締結することもあります。支店長や部長の記名押印でも特に問題はないのですが、可能であれば代表取締役の記名押印をいただくのが望ましいでしょう。

 

② 相手側の社内手続きをチェック

通常の売買契約時にはここまでしなくても問題ありませんが、重要な契約(例えば会社の合併や買収)、あるいは多額の融資実行時には、会社ごとの取締役規定や業務規定をもってきちんと社内決裁が取れているかを念のため確認します。

 

③ 署名、記名押印のチェック

稟議が通ったら契約書の締結となるわけですが、ここで署名、記名押印のチェックを行います。なお、署名と記名の違いは下記のとおりです。

【署名】本人が自分で自分の名前をサインすること。田中太郎本人が「田中太郎」と書くこと。署名だけで有効ではあるが、署名の場合でも捺印をしてもらうケースが多い。

【記名】社名・代表取締役・氏名が書かれた判子が押印されていること、あるいは印字すること。記名の場合は捺印も必要。

効力は署名と記名押印どちらでも同じです。

◇実印と認印で効力は違う?

実は効力は全く一緒です。実印だとしても三文判だとしても契約書に押したら効力は同じになります。それでは何故、契約書の押印は実印が多いのでしょうか。それは日本が判子文化ということもありますが、会社の実在性を確認して取引しましょうという意味合いが込められているからです。実印は印影を登録したものであり、印鑑証明書をもって会社の実在性を確認することができます。慣例的には実印にて押印することがほとんどです。ただし、仮に認印で押印したとしても法的効果は変わらないということは知っておくとよいでしょう。

 

■有効な契約書を作成するための4要素

契約書を作成する際には、下記の4要素の内容を踏まえていないと、契約内容としては不備があると捉えられてしまうため注意が必要です。

  • ① 契約内容の確定性
    契約書を読んでも、何をするのかがはっきりと確定できないものは確定性がないといえます。例えば、AさんがBさんに不動産を売るという内容の契約書を締結したとします。しかし、Aさんは日本全国の様々なところに土地を持っており、Aさんが持っているどの不動産か特定できない場合には、この契約は意味を持ちません。
  • ② 契約内容の実現可能性
    実現できそうもないことを契約しても意味がありません。例えば、月に家を作りますといった内容の契約は、現在の技術では実現が難しいため、契約は無効になります。
  • ③ 契約内容の適法性
    民法に書かれている規定は“任意規定”であるため、当事者間で契約した内容が優先されます。ただし、なかには“強行規定”というものがあり、それに反する契約内容は無効になります。この“強行規定”は社会の秩序を維持していくうえで重要であるとされる内容です。例えば、「親族相続の規定」では、被相続人が亡くなった場合、誰が相続するのかといったことが規定されています。他には「独占禁止法」や「借地借家法」なども挙げられます。こういった規定の内容に反する契約を結んだ場合、契約は無効となります。
  • ④ 契約内容の社会的妥当性
    適法性と少し似ており、こちらも社会を維持していくうえで大事な要素になります。例えば、暴力行為や著しく不公正な取引といった事は無効になります。また、多額の利子を取る契約も社会的妥当性に反するため無効となります。一番分かりやすいのは公序良俗違反です。民法90条に「公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする」と記載されています。要するに、人の道に反するようなことはだめということです。

 

■契約書の証拠力を強めるためにはどうするか?

確定日付をとることで契約書の証拠力を高めます。確定日付は私的な契約書の日付に対し、公的に確かにその日に契約書が存在しましたと証明するものです。確定日付の活用場面としては、例えば、債権譲渡の通知では早い者勝ちになるため日付が重要になりますが、公的に日付を証明しておけば第三者に対抗することができます。なお、確定日付となるものは下記のとおりです。

・公正証書の日付
・登記所や公証人役場で、契約書に日付のある印章を押印したときのその日付
・内容証明郵便の日付

確定日付は、契約書が作成・締結された日付を証明するものであって、契約書の中身を証明しているわけではないため、その点は留意しておきましょう。

 

■契約書の強制履行力を高めるためにはどうするか?

契約書の強制履行力を高めるためのものとして、公正証書があります。公正証書は、債務者が債務履行しない時に、強制的に債務を履行させる力を持つものになります。ただし、手続きが煩雑なため、実務でここまで行うことはほとんどありません。公正証書を作成するケースとしては、お金を貸したが返してこないといった場面等で作成することが考えられます。いつ支払うのか等を記載した債務弁済契約書を作り、今度支払いが止まってしまった時には強制的に資産を差し押さえるといった強制執行認諾文言を加え、公正証書にします。強制執行認諾文言とは、強制執行されても文句を言いませんということです。この文言を入れておけば、その公正証書が自動的に執行証書になります。裁判の手続きを経ることなく、すぐに債務者の資産を差し押さえることができるという強力なものです。通常はここまですることはないため、こういった方法もあるということを頭の片隅に入れておく程度でよいでしょう。

 

■相手の同意が得られず、契約書を作成できない場合の対処法

契約書を取り交わすことを前提に説明してきましたが、相手が同意しなければ契約書を取り交わすことはできません。相手から「信用してほしい」と言われて口頭で取引きするというケースも考えられます。そういった場合には、さまざまな記録が大切になります。例えば、相手から送られてきたFAXやメールは大事な記録ですので、しっかり保存しておきましょう。もちろん、納品書や受領書、請求書などは、契約の履行を確認できる書類ですので重要です。また、相手と商談した際の議事録やメモも残しておくとよいでしょう。裁判になった場合、証拠とまではいかなくても役立つことがあるためです。

 

■債権保全・回収に役立つ契約書の主な条文

実際に契約書を作成する際に、債権保全・回収に役立つ主な条文は以下の通りです。

● 期限の利益喪失条項

売主にとってはこの条項が最も重要とも言われることが多いのですが、相殺などにより債権を回収しようとする場面で極めて有効な条項になります。期限の利益とは「契約で定められた期限までは債務を履行しなくても良い」という利益のことで、民法第136条で定められています。言い換えると、買掛金で物品を仕入れた債務者が、買掛金の支払期限がくるまでは債務を支払わなくてもよいということです。この期限の利益を喪失する場合については、民法第137条に記載されています。

第137条
次に掲げる場合には、債務者は、期限の利益を主張することができない。
・債務者が破産手続開始の決定を受けたとき。
・債務者が担保を滅失させ、損傷させ、又は減少させたとき。
・債務者が担保を供する義務を負う場合において、これを供しないとき。

民法で定義されているのに、なぜ期限の利益喪失条項を契約書に入れておくのが良いのかというと、破産手続き開始となった時には会社が倒産した状態であり、債権回収はその前に何とかしなければなりません。そのため、当事者間で締結する契約書の中に、債務者が債務超過となった場合など、財務状況が悪化した際に債権者としてすぐに手を打てるよう条項を入れ込むと良いのです。期限の利益喪失条項に合致する場合には、すぐに債務を支払わなければならないという内容にします。

 

● 契約解除条項

法律に従って契約解除ができる法定解除の要件は、債務不履行か瑕疵、履行遅滞などに限られ、しかも催告や通知が必要になります。そこで、相手が倒産寸前で代金支払いが遅れている場合には、無催告・無通知で契約解除ができるように契約書の条項に入れ込んでおきます。これにより売主は商品の引き揚げが可能となります。

 

● 所有権留保

売買において、買主の信用力が低い場合は、債権の保全のため「代金の決済をもって商品の所有権が移転する」と規定します。これが所有権留保の特約です。

 

● 債権譲渡禁止事項

債権の譲渡は法律上自由にできることになっています。しかし、当社が仕入の立場の取引で、当社に対する債権を反社会的勢力などに譲渡された場合、当社はその反社勢力から請求を受けることになってしまい、予期せぬトラブル等に巻き込まれかねません。これを防止するため、契約で債権譲渡禁止の特約を入れておくことで、トラブルに巻き込まれにくくなります。

 

● 専属的合意管轄裁判所

裁判において当社が原告の場合、管轄裁判所をあらかじめ決めておかないと、裁判は被告の本社所在地を管轄する裁判所で行われることになります。被告の本社所在地が当社と遠距離の場合は、とてつもなく不便で面倒であり、交通費などの費用もかかってしまいます。

 

これら5つの条項は契約書に入れておくと、債権回収の場面で優位になりますので、参考にしてみるとよいでしょう。

 

■YouTubeでも詳しく解説!

本ページの内容は、トーショー公式YouTubeで配信している『与信管理実務スペシャル動画』シリーズともリンクした内容になっております。動画ではより詳しく解説していますので併せてご視聴いただくと、さらに理解が深まります。ぜひご視聴ください。

 

トーショー公式YouTube【与信管理実務】取引実行時の確認作業①:契約書の重要性 サムネイル>>トーショー公式YouTube【与信管理実務】取引実行時の確認作業①:契約書の重要性

 

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>>トーショー公式YouTube【与信管理実務】取引実行時の確認作業③:債権保全・回収に役立つ主な条文は? サムネイル>>トーショー公式YouTube【与信管理実務】取引実行時の確認作業③:債権保全・回収に役立つ主な条文は?

 

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